科学研究費補助金研究成果公開促進費「学術図書」に関する要望
要望書提出経緯
大学出版部協会では、学術図書の刊行を支える科学研究費補助金研究成果公開促進費が大幅に削減されたことを憂慮し、文部科学省と日本学術振興会にたいして、この制度の維持と発展をうったえる「要望書」を提出することを決議し、さる2008年6月17日に提出いたしました。皆様のご理解とご協力をお願い申し上げます。
科学研究費補助金研究成果公開促進費
「学術図書」に関する要望
平成20年6月17日
有限責任中間法人 大学出版部協会
理事長 山口雅己
日本学術振興会の管轄する科学研究費補助金研究成果公開促進費が2年にわたって大幅に削減されました。そのうち、大学出版部はじめ学術図書出版社が主に関わる「学術図書」助成の予算は昨年40%削減され、今年さらに10%カットされて、2年前と比べてほぼ半減しています。金額にして平成18年度の7億円弱から平成20年度の3.7億円に、採択率は4割台から2割台になりました。その結果として、今年不採択になった著作に対して付された理由に、「課題に対する評価は高いが、予算配分の都合による」というものも多く、優れた研究成果が公刊の機会を逸していることがわかります。私たちは、このような事態を日本の、ひいては世界の学問の発展にとって大きな障害になりかねないと憂慮しています。
◎研究発表機会の狭隘化
これまでこの助成により書籍として公刊の機会を得て、はじめて学界・社会で評価されることになった研究成果は数多く(特に人文・社会科学にあっては、国際的にみても、体系的な「本」の形に研究をまとめ上げて、はじめてその研究が正当に評価されると言われます)、したがって、この制度の縮減は何よりも、研究成果の発表の道を狭められた研究者に大きなマイナスの影響を及ぼすことになります。
◎研究支援基盤の喪失化
それは、たんに完成した研究成果が印刷・公表できないという次元にはとどまりません。学術出版における編集活動は、完成した研究成果を印刷・刊行するのみならず、その手前の研究の段階から、書物の方向性や構成、草稿の検討など、研究者の様々な相談にのり、研究をサポートするものだからです。なかでも、しばしば長期にわたる大部の体系的な学術図書の執筆は、研究の重要な部分であり研究の仕上げでもあるため、それに対するサポートの役割は大きいと考えられます。ところが、このようにして完成した研究成果が助成を得られず発表の見通しが立たなくなれば、編集活動をとおした研究のサポートは不可能になっていきます。それは、研究を支える重要な基盤の一つが崩壊することにつながり、日本の学術に大きな損失をもたらします。
◎研究計画立案の不能化
しかも、科学研究費補助金研究成果公開促進費「学術図書」は、すべての研究者に開かれた性格や、大部・大型の出版計画にも対応しうる点、また、(単年度や数年度ではなく)長期にわたる研究成果を十全な形で公刊できる等の点で優れており、テーマや規模など様々な制約のある他の(民間財団や一部の研究機関の)助成では置き換えられません。この制度の不可欠な所以です。この「学術図書」出版助成の削減によって、大半の研究機関の研究者や、まだ研究機関にポストを得ていない若手研究者の研究成果の体系的な発表、それのみならず研究自体に大きな障害がもたらされ、また、特に恵まれた条件にある研究機関の研究者にあっても、大部・大型の研究成果の発表が制約を受けることは間違いありません。ひいては研究計画の立案にも大きなマイナスを与えるでしょう。
本制度の縮減は、さらに、研究成果の長期にわたる安定的な普及・流通や、学術図書が一般の書籍と同様に流通し国民に受容されることによる社会的影響など、他の点でも様々な障害をもたらすことが予想されます。
こうした点に鑑み、私たちは、この制度の維持と長期的な発展を強く要望するものです。
《資料》
恩賜賞・日本学士院賞における
「科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術図書)」
の交付を受けた著作
恩賜賞・日本学士院賞は現在98回を数えている我が国で最高の学術賞ですが、そのうち過去の50回(第49〜98回)について人文・社会科学系の受賞者・研究題目を中心に調査しましたところ、131件中、下記の48件が、現在の「科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術図書)」の交付を受けた著書によって受賞していました(ちなみに、人文・社会科学系の受賞研究題目は、著書名とまったく同じか、ほぼ等しいものです)。これは、平均するとほぼ毎年1件、人文・社会科学系の受賞のうち3分の1以上が、この刊行助成を得て著書を刊行した結果として、恩賜賞・日本学士院賞を受賞していることを意味します。刊行著作の質の高さとともに、この補助金の、学術研究における効果と必要性を端的に示すものと申せましょう。
第98回(平成20年〈2008〉6月9日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
保坂高殿 |
ローマ帝政初期のユダヤ・キリスト教迫害 |
教文館・2003 |
第97回(平成19年〈2007〉6月11日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
恩賜賞・
日本学士院賞 |
秀村選三 |
幕末期薩摩藩の農業と社会
−大隅国高山郷土守屋家をめぐって− |
創文社・2004 |
日本学士院賞 |
杉山正明 |
モンゴル帝国と大元ウルス |
京都大学学術出版会・2004 |
第94回(平成16年〈2004〉6月14日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
間野英二 |
バーブルとその時代
(『バーブル・ナーマの研究 4』) |
松香堂・2001 |
第92回(平成14年〈2002〉6月10日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
沼本克明 |
日本漢字音の歴史的研究
−體系と表記をめぐって− |
汲古書院・1997 |
日本学士院賞 |
佐藤彰一 |
修道院と農民
−会計文書から見た中世形成期ロワール地方− |
名古屋大学出版会・
1997 |
第89回(平成11年〈1999〉6月14日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
夫馬 進 |
中国善会善堂史研究 |
同朋舎出版・1997 |
日本学士院賞 |
佐々木丞平
佐々木正子 |
円山應舉研究 |
中央公論美術出版・
1996 |
第86回(平成8年〈1996〉6月10日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
平田 寛 |
絵仏師の時代 |
中央公論美術出版・
1994 |
第84回(平成6年〈1994〉6月6日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
丸山雍成 |
日本近世交通史の研究 |
吉川弘文館・1989 |
日本学士院賞 |
川崎信定 |
一切智思想の研究 |
春秋社・1992 |
第80回(平成2年〈1990〉6月11日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
鈴木佳秀 |
申命記の文献学的研究 |
日本基督教団出版局・1987 |
第79回(平成元年〈1989〉6月12日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
前田専学 |
A Thousand Teaching
:the Upade_as_hasr_ of _a_kara |
東京大学出版会・
1979 |
第76回(昭和61年〈1986〉6月9日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
鈴木幹也 |
エンペドクレス研究 |
創文社・1985 |
第75回(昭和60年〈1985〉6月10日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
多賀秋五郎 |
中国宗譜の研究 |
日本学術振興会・
1981-1982 |
日本学士院賞 |
林巳奈夫 |
殷周時代青銅器の研究
−殷周青銅器綜覧− |
吉川弘文館・1984 |
第74回(昭和59年〈1984〉6月11日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
恩賜賞・
日本学士院賞 |
仲宗根政善 |
沖縄今帰仁方言辞典
−今帰仁方言の研究・語彙篇− |
角川書店・1983 |
日本学士院賞 |
山口瑞鳳 |
吐蕃王国成立史研究 |
岩波書店・1983 |
第71回(昭和56年〈1981〉6月10日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
小川 信 |
足利一門守護発展史の研究 |
吉川弘文館・1980 |
日本学士院賞 |
所 三男 |
近世林業史の研究 |
吉川弘文館・1980 |
第70回(昭和55年〈1980〉6月11日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
今堀誠二 |
中国封建社会の構造
−その歴史と革命前夜の現実− |
日本学術振興会・
1978 |
日本学士院賞 |
平川彰ほか |
阿毘達磨倶舎論索引 |
大蔵出版・
1973-1978 |
第69回(昭和54年〈1979〉6月11日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
佐藤武敏 |
中国古代絹織物史研究 |
風間書房・
1977-1978 |
第67回(昭和52年〈1977〉6月13日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
山田憲太郎 |
東亜香料史研究 |
中央公論美術出版・
1976 |
第66回(昭和51年〈1976〉6月7日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
金子晴勇 |
ルターの人間学 |
創文社・1975 |
第65回(昭和50年〈1975〉6月2日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
恩賜賞・
日本学士院賞 |
高崎直道 |
如来蔵思想の形成
−インド大乗仏教思想研究− |
春秋社・1974 |
第64回(昭和49年〈1974〉6月10日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
恩賜賞・
日本学士院賞 |
三上次男 |
金史研究 |
中央公論美術出版・
1972 |
第63回(昭和48年〈1973〉5月21日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
玉村竹二 |
五山文学新集 |
東京大学出版会・
1967-1981 |
第62回(昭和47年〈1972〉6月1日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
恩賜賞・
日本学士院賞 |
松下 忠 |
江戸時代の詩風詩論
−明・清の詩論とその摂取− |
明治書院・1969 |
日本学士院賞 |
倉沢 剛 |
小学校の歴史 |
ジャパンライブラリー
ビューロー・1963 |
第61回(昭和46年〈1971〉5月27日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
亀井俊介 |
近代文学におけるホイットマンの運命 |
研究社・1970 |
第60回(昭和45年〈1970〉5月29日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
護 雅夫 |
古代トルコ民族史研究 |
山川出版社・1967 |
第59回(昭和44年〈1969〉6月9日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
浜口重國 |
唐王朝の賤人制度 |
東洋史研究會・1966 |
日本学士院賞 |
滋賀秀三 |
中国家族法の原理 |
創文社・1967 |
第58回(昭和43年〈1968〉5月30日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
金子金治郎 |
菟玖波集の研究 |
風間書房・1965 |
第57回(昭和42年〈1967〉5月23日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
秋山光和 |
平安時代世俗画の研究 |
吉川弘文館・1964 |
第56回(昭和41年〈1966〉5月25日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
恩賜賞 |
前田惠學 |
原始仏教聖典の成立史研究 |
山喜房佛書林・1964 |
第55回(昭和40年〈1965〉5月18日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
恩賜賞 |
小島憲之 |
上代日本文學と中国文學
−出典論を中心とする比較文學的考察− |
塙書房・1962-1965 |
第54回(昭和39年〈1964〉5月8日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
築島 裕 |
平安時代の漢文訓読語につきての研究 |
東京大学出版会・
1963 |
日本学士院賞 |
竹中靖一 |
石門心学の経済思想 |
ミネルヴァ書房・
1962 |
第53回(昭和38年〈1963〉5月10日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
寶月圭吾 |
中世量制史の研究 |
吉川弘文館・1961 |
日本学士院賞 |
福島正夫 |
地租改正の研究 |
有斐閣・1962 |
第52回(昭和37年〈1962〉5月11日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
恩賜賞 |
笹渕友一 |
浪漫主義文学の誕生
−「文学界」を焦点とする浪漫主義文学の研究− |
明治書院・1958 |
日本学士院賞 |
中村孝也 |
徳川家康文書の研究 |
日本学術振興会・
1958-1971 |
第51回(昭和36年〈1961〉5月12日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
岸辺成雄 |
唐代音楽の歴史的研究 楽制篇上巻 |
東京大学出版会・
1960 |
日本学士院賞 |
長沢信壽 |
アウグスティーヌス哲學の研究 |
創文社・1960 |
第50回(昭和35年〈1960〉5月18日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
恩賜賞 |
高田修ほか |
醍醐寺五重塔の壁画 |
吉川弘文館・1959 |
第49回(昭和34年〈1959〉5月6日)
賞 名 |
著(編)者名 |
書 名 |
出版社・刊行年 |
日本学士院賞 |
村田治郎ほか |
居庸関 |
京都大學工學部・
1955-1957 |